海外に本社やグループ会社を持つ企業では、外国の法人から従業員を出向により受け入れるケースがあります。この場合、受け入れる日本の会社側では、法人間の出向負担金等の論点とは別に、その従業員個人の所得税・住民税について、税務上の検討や対応が必要になります。本記事では、外国からの出向者を受け入れる場合に会社側で必要となる税務上の確認事項と手続きを解説します。
1.前提の確認
個々の手続きに入る前に、例えば次のような点を確認する必要があります。このあたりの設計により、その後の対応が変わるケースがあるためです。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 雇用関係 | 外国法人に雇用されたままの出向か、日本法人との直接雇用か |
| 給与の支払地・負担者 | 給与の全額を日本で支払うのか、全額を国外で支払うのか、双方から支払うのか。また、出向負担金の取り扱いはどうなっているか |
| 手取り保証の有無 | 日本で生じる税金等を会社が負担し、出向者の手取り額を保証する契約があるか |
出向契約の検討段階で、これらを関係者間で明確にしておくことが、後の手続きを円滑にします。
2.赴任前の確認
(1) 在留資格
外国籍の方が日本で就労するためには、就労が認められる在留資格が必要です。在留資格の手続きは出入国在留管理庁の所管であり、税務とは別の手続きですので、詳細は管轄の官公庁や行政書士等の専門家にご確認ください。
(2) Assignment Letter / 出向条件の書面化
出向にあたっては、出向条件を定めた書面(Assignment Letter/出向契約書等)を整備することが一般的です。この書面は労務管理上の意味だけでなく、税務上も次の判断材料となる非常に重要な書類のため、内容を事前に確認しておく必要があります。
- 納税義務者の区分
- 給与の支払者・負担者
- 手取り保証の有無とその範囲
- 住宅、渡航費、一時帰国費用など、会社が負担する費用の範囲
(3) 納税義務者の区分
日本の所得税では、その方が居住者・非永住者・非居住者のどの区分に当たるかによって、課税される所得の範囲が変わります。出向期間があらかじめ1年以上と定められている場合は入国した日から居住者に該当し、外国籍で過去10年以内の国内在住期間が5年以下の方は、当初は非永住者に該当するのが通常です。区分の判定方法と課税所得の範囲については、別記事で解説しています。
3.赴任時の手続き
(1) 扶養控除等申告書の提出
日本法人側から給与の支払いを受ける場合、通常の従業員と同様に、給与所得者の扶養控除等申告書を会社に提出します。国外に居住する親族を扶養控除等の対象とする場合には、親族関係書類や送金関係書類の提出等が必要となるほか、対象となる親族の範囲にも一定の要件があります。
(2) 社会保険・社会保障協定
日本と相手国の双方で社会保険料の負担が生じることを防ぐため、両国間で社会保障協定が締結されている場合があります。協定の適用を受けるためには適用証明書の取得等の手続きが必要です。社会保険の手続き自体は税務とは別の分野ですので年金事務所や社会保険労務士にご確認ください。
4.毎月の給与計算
(1) 日本で支払う給与
日本法人が支払う給与については、通常の従業員と同様に、毎月の給与から所得税の源泉徴収を行います。
(2) 国外で支払われる給与がある場合
出向元の外国法人から国外で支払われる給与がある場合、その給与は原則として日本での源泉徴収の対象とはならず、後述のとおり、出向者本人の確定申告により課税関係を整理することになります。ただし、給与の支払・負担の関係によっては日本法人側での源泉徴収の要否が問題となる可能性があるため、国外払いの給与がある場合には、その支払・負担の関係を整理したうえで取り扱いを確認する必要があります。
なお、外資系企業では、本国側の方針により、国外で支払われる給与の額を日本の給与計算に計上して管理する実務(いわゆるシャドーペイロール)が行われることがあります。
(3) 手取り保証がある場合
手取り保証の契約がある場合、税引後の手取り額から逆算して支給総額を求める、グロスアップ計算を行うことになります。会社が税金を負担すると、その負担額にもさらに税金がかかるという循環的な構造になるため、計算方法には一定の理解が必要です。
5.住民税
個人住民税は、その年の1月1日時点で日本に住所がある方に対して、前年の所得を基礎として課税されます。このため、外国からの出向者については、次のような特有の時間差が生じます。
- 来日した年は、その年の1月1日時点で日本に住所がないため、住民税は課税されません
- 来日した年の所得に対する住民税は、翌年度から課税が始まります
手取り保証を行っている場合、会社の負担額が2年目から増加することになるため、出向コストの見積りにあたってはこの点を織り込んでおく必要があります。
なお、帰任時にも、1月1日の賦課期日との関係で住民税の取り扱いの検討が必要になります。
6.年末調整と確定申告
(1) 年末調整の範囲
日本法人が支払う給与については、通常の従業員と同様に年末調整を行います。ただし、国外で支払われる給与は、日本での勤務に基づくものである限り、日本で支払われていなくても日本の課税対象となります。この国外で支払われる給与は年末調整に取り込むことができないため、年末調整を行っても課税関係は完結せず、従業員本人による確定申告が必要となります。
(2) 確定申告が必要となる主なケース
外国からの出向者については、例えば次のような場合に確定申告の要否を検討する必要があります。
- 国外で支払われる給与があり、日本で源泉徴収されていない場合
- 非永住者に該当する方で、いわゆる送金課税の対象となる所得がある場合
- 外国の親会社からRSU・ESPP等の株式報酬を受けている場合
- 国外の口座で利子・配当を受け取っている場合
(3) 外国と日本の双方で課税される場合
同じ所得に対して外国と日本の双方で課税される場合には、二重課税を調整するため、外国税額控除の適用を検討することになります。
7.おわりに
外国からの出向者を受け入れる場合の税務の全体像は、以上のとおり整理できます。もっとも、個々の場面では検討を要する部分が生じることがあります。例えば、租税条約による短期滞在者免税の適用の可否、手取り保証がある場合のグロスアップ計算の方法、非永住者の送金課税の取り扱い、赴任に伴い会社が負担する費用の課税・非課税の区分など、その内容は多岐にわたります。
当事務所では、外国からの出向者の受入れに伴う税務や、出向者の方の確定申告について対応しております。個別的なご相談やサポートも展開しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
【免責事項】
- 本記事は、執筆時点の法令・通達等に基づいて作成した一般的な情報提供を目的とするものであり、特定の取引や個別事案に対する税務上の助言を行うものではありません。税法の解釈・適用は個々の事実関係により異なり、また法改正等により内容が変わる可能性があります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
- 国外が関係する取引の場合、日本国内の法令だけでなく、国外現地での課税関係や租税条約も考慮のうえ、課税関係を検討する必要があります。
- 本記事は、分かりやすさを重視するため、法令上の正確な用語や厳密な表現とは異なる、平易な表現を用いている場合がございます。
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