外国から出向者を受け入れる際、出向契約やAssignment Letter等において、本人の手取額を保証する定めがされることがあります。日本の税負担を本人に負わせないという趣旨によるものですが、この場合、単純に税額分を会社が負担するだけだと、その会社が負担した税額そのものも本人の給与として課税されることになるため、手取額を保証できません。この場合に、手取額から税込みの給与額(グロス額)を求める計算をグロスアップ計算といいます。
本記事では、出向者の手取額を保証する場合のグロスアップ計算について、所得税と住民税に分けて整理し、あわせて帰任後に日本から給与を支払う場合の取扱いを解説します。出向者を受け入れる場合の税務の全体像については、外国からの出向者を受け入れる場合の税務をご覧ください。
1.手取保証(ネット契約)とは
(1) 契約の種類
給与の定め方には、税引前の支給額を定める方法(額面契約/グロス契約)と税引後の手取額を定める方法(手取保証/ネット契約)があります。
前者の場合、支給額から所得税等の金額が控除されたうえで、本人に給与が支払われます。
後者の場合、日本で生じる税額は会社が負担することになり、本人から見れば、所得税等の金額にかかわらず、受け取る給与の金額は変わりません。
出向者については、母国での給与水準を基準に赴任条件を組み立てることが多く、また母国と日本の税負担の差を本人に負わせないという人事政策上の考え方から、後者の方法が採られることがあります。
(2) 手取保証の類型
手取保証には、いくつかの設計があります。代表的なものとして、母国にいたとしたら負担したであろう仮定の税額を給与から控除し、実際に生じた税額は会社が負担するという方法があります(タックスイコライゼーション)。本人の税負担を赴任の前後で一定に保つという考え方によるものです。また、本人が実際の税額を負担したうえで、母国にいた場合の税額を超える部分のみを会社が補填するという方法もあります(タックスプロテクション)。
いずれの方法であっても、会社が本人の税額を負担する部分が生じる点は共通しており、その部分について調整が必要になります。
(3) 会社負担の対象
手取保証はあくまで会社と出向者本人との契約に基づき行われるため、どの範囲まで会社が負担するかは、その契約内容によることになります。例えば、会社が負担する範囲が所得税だけなのか住民税を含むのか、社会保険料の本人負担分を含むのか、日本以外の国で生じる税を含むのかが定まっていなければ、計算の前提を置くことができません。出向契約やAssignment Letter等において、負担の範囲と期間を明記しておく必要があります。
なお、本記事では、会社が日本の所得税・復興特別所得税・住民税を負担する場合を前提に解説します。
2.手取保証がある場合の税額計算
本人が負担すべき税額を会社が負担した場合、その負担した金額は、本人が受ける経済的な利益として給与所得に含まれ課税対象となります。
したがって、保証した手取額をもとに税額を計算する→会社がその税額を負担する→その負担額が本人の給与になるため給与の額が増える→給与が増えた結果税額も増える→会社は増えた税額を負担する、といった流れが繰り返されます。
もっとも、この繰り返しが無限に続くわけではありません。加算される税額は繰り返すごとに小さくなっていくため、給与の額は最終的に一定の金額に収束します。この収束した金額、すなわち「手取額+会社が負担する税額=グロスの給与額」という関係が成り立つ金額が、その契約において必要な給与の支給額(額面金額)ということになります。
所得税基本通達においても、支払額が税引手取額で定められている場合には、その手取額を税込みの金額に逆算し、逆算した金額を支払額として源泉徴収税額を計算することに留意する旨が定められています。
なお、この場合に源泉徴収票に記載する支払金額は、保証した手取額ではなく、手取額と源泉徴収税額との合計額(グロス額)となります。手取額のまま記載してしまうと、本人の所得の額が実際より小さく記載されることになります。源泉徴収票は、本人が確定申告を行う際の基礎となるほか、在留資格の手続や金融機関の審査等で所得を証明する資料としても用いられるため、記載する金額には注意が必要です。
3.所得税・復興特別所得税のグロスアップ計算
(1) 月次給与
月次の給与に係る所得税・復興特別所得税(源泉所得税)のグロスアップ計算は、反復計算によって行います。
具体的には、まず、手取保証前の支給額をグロス額と仮に置き、その金額をもとに税額と社会保険料を計算し、負担する税額を支給額に加算します。そこから算出される手取額が保証した金額と一致しなければ、同じ計算を繰り返します。この作業を、手取額が保証額と一致するまで続けます。最終的には必ず一定の金額に収束します。
(2) 年末調整
毎月の給与から源泉徴収する税額は、源泉徴収税額表に基づく概算であり、その年の年税額は年末調整または確定申告によって確定します。したがって、会社が最終的に負担すべき税額も、年末調整または確定申告の時点で確定することになります。手取保証が行われている場合も同様です。この精算により追加で会社が負担した金額も、負担した年の給与として課税の対象になる点に留意する必要があります。
4.住民税のグロスアップ計算
(1) 住民税の課税の仕組み
個人住民税は、その年の1月1日(賦課期日)現在に住所がある市区町村が、対象者の前年の所得に基づき課税を行うため、所得が生じた年とその所得に対する住民税を負担する時期が1年ずれることになります。そのため、手取保証をしている会社の負担額は、赴任の年から数年かけて段階的に変化することに注意する必要があります。
(2) 赴任した年
赴任した年の1月1日には日本に住所がないことが通常ですので、その年に負担する住民税はなく、グロスアップ計算の必要もありません。
(3) 赴任の翌年
赴任の翌年の1月1日には日本に住所があるため、赴任した年の所得に対する住民税が課され、6月から徴収が始まります。なお、この住民税の基礎となるのは赴任した年の所得です。年の途中で赴任した場合、その年の所得は1年分に満たないため、税額も平年より小さくなることが通常です。
(4) 赴任の翌々年以降
赴任の翌々年の6月からは、1年分の所得に対応する住民税となり、平年ベースの負担になります。このように、会社の負担は赴任から2年かけて段階的に増えていきます。赴任1年目の実績をもとに翌年以降の予算を組むと、負担額を過少に見積もることになるため注意が必要です。
(5) 帰任する場合
帰任する年の1月1日に日本に住所があれば、前年の所得に対する住民税がその年の6月から課されます。年の途中で出国する場合には、未徴収の税額を最後の給与から一括して徴収するか、納税管理人を定めて納付することになります。いずれの方法によっても、帰任した後まで会社の負担が残ることになります。
5.帰任後に日本から支払う給与
帰任して非居住者となった後に、日本の会社から給与や賞与を支払うことがあります。計算期間に国内勤務の期間が含まれる賞与を帰任後に支払う場合が、その典型です。
(1) 課税の対象となる範囲
非居住者に支払う給与のうち日本で課税されるのは、国内において行った勤務に基因する部分に限られます。帰任した後の勤務に対応する部分は、日本の課税の対象にはなりません。なお、この給与について会社が本人の税額を負担する場合、その負担額も国内勤務に対応する給与として課税の対象に含まれます。また、内国法人の役員として受ける報酬は、勤務した場所にかかわらず日本で課税されます。
給与の計算期間の中途に非居住者となった場合は特別な取り扱いがあるので、事前に確認する必要があります。
(2) 税率
課税の対象となる部分については、支払の際に20.42%(復興特別所得税を含みます)の税率で源泉徴収を行います。非居住者に対するこの課税は、原則として源泉徴収のみで完結し、年末調整や確定申告による精算は行いません。なお、この給与の支払いが国外から行われる場合は取り扱いが異なります。
(3) グロスアップ計算
税率が一定であるため、居住者の給与のような反復計算は不要です。「手取額÷(1-0.2042)」により、グロス額を直接求めることができます。
帰任後に支払う給与(国内勤務に対応)について、手取額500,000円を保証している場合
グロス額:500,000円 ÷(1-0.2042)= 628,298円(円未満切捨て)
源泉徴収税額:628,298円 × 20.42% = 128,298円(円未満切捨て)
手取額:628,298円 - 128,298円 = 500,000円
この場合も、源泉徴収票に記載する支払金額は、保証した500,000円ではなくグロス額の628,298円となります。
6.留意点
(1) 国外で支払われる給与
出向者の給与の一部が母国の出向元から支払われることがあります。国外で支払われる給与は日本での源泉徴収の対象とならず、本人が確定申告により納付することになります。
手取保証をしている場合、会社が負担すべき税額には、この確定申告により確定する税額も含まれることが通常です。国内で支払う給与だけをもとに計算すると、負担額が不足するため、給与の総額を把握したうえで計算を行いましょう。
(2) 年末調整できない場合
グロスアップ計算の結果、給与の収入金額(グロス額)が2,000万円を超え、年末調整を行うことができなくなる場合があります。この場合は、確定申告により税額を精算する必要があるため、税負担をどのように調整するかは、事前に検討しておく必要があります。
7.おわりに
以上のように、手取保証が行われている場合は、通常の給与計算だけでは処理が不足するため、グロスアップの手順を踏む必要があります。
当事務所では、出向者を受け入れる企業のグロスアップ計算や出向者の確定申告にも対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
【免責事項】
- 本記事は、執筆時点の法令・通達等に基づいて作成した一般的な情報提供を目的とするものであり、特定の取引や個別事案に対する税務上の助言を行うものではありません。税法の解釈・適用は個々の事実関係により異なり、また法改正等により内容が変わる可能性があります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
- 国外が関係する取引の場合、日本国内の法令だけでなく、国外現地での課税関係や租税条約も考慮のうえ、課税関係を検討する必要があります。
- 本記事は、分かりやすさを重視するため、法令上の正確な用語や厳密な表現とは異なる、平易な表現を用いている場合がございます。
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