所得税法では、納税義務者の区分によって異なる課税所得の範囲を定めています。区分の全体像は別の記事で解説していますが、その中で最もその範囲に注意が必要なのが「非永住者」です。本記事では、非永住者の課税所得の範囲と実際に申告を行う際の留意点について整理します。
1.非永住者の定義
非永住者とは、居住者のうち、次の要件をいずれも満たす個人をいいます。
- 日本国籍を有していないこと
- 過去10年以内において、国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下であること
2つ目の要件は「判定する日の10年前の同日から判定する日の前日までの期間」で計算します。来日から連続して国内に居住している場合、おおむね来日から5年を経過した日の翌日以後は、非永住者ではない通常の居住者(非永住者以外の居住者)となります。
また、年の中途で区分が変わった場合は、それぞれの期間に応じた課税所得の範囲において課税されます。1年を通じて単一の区分で判定するわけではない点に注意が必要です。
2.課税所得の範囲の全体像
非永住者に課税される所得の範囲は、次のとおりです。
① 国外源泉所得以外の所得 … 支払地や送金の有無にかかわらず、すべて課税
② 国外源泉所得 … 「国内において支払われたもの」と「国外から送金されたもの」に限り課税
| 所得の区分 | 課税範囲 |
|---|---|
| 国外源泉所得以外の所得 | 全額課税(支払地・送金の有無を問わない) |
| 国外源泉所得 | 国内払い分+国外からの送金分のみ課税 |
それぞれの詳細について、以下3〜6に記載します。
3.国外源泉所得以外の所得
まず、「国外源泉所得」とは、外国税額控除の規定に定める国外源泉所得の定義を用います。代表的なものは次のとおりです。
- 国外にある不動産の貸付け・譲渡による所得
- 国外の銀行等に預け入れた預金の利子
- 外国法人から受ける配当(※国外において行う業務に係るもの等の要件があります)
- 国外において行う勤務に基因する給与
なお、この非永住者の課税所得の範囲においては、「国外源泉所得」の範囲に、国外にある有価証券の譲渡による所得のうち一定のもの(後述の「特定有価証券」)を含むものとされています。それ以外の海外口座で保管する株式の譲渡などは、国外源泉所得に該当しないケースが多いため、その内容を検証する必要があります。
また、租税条約において国外源泉所得につき異なる定めがある場合には、その条約の定めによるため、必ず租税条約を確認する必要があります。
「国外源泉所得以外の所得」には、この国外源泉所得に該当しないもののすべてが含まれ、支払場所や送金の有無に関わらず課税対象となります。所得税法に規定する「国内源泉所得」とは必ずしも一致しないことに注意が必要です。
実務上、特に誤解が多いのが国外払いの給与です。国外源泉所得となる給与は「国外において行う勤務に基因する」部分であるため、日本で勤務した期間に対応する給与は、外国の親会社等から国外の口座に支払われても、国外源泉所得に該当せず、全額が課税対象となります。外国親会社から付与されるRSU等の株式報酬のうち国内勤務に対応する部分も同様です。
4.国内において支払われたもの
国外源泉所得のうち、まず「国内において支払われたもの」は課税対象となります。
「国内において支払われた」には、文字どおり国内で支払いが行われたもののほか、次のような場合も含まれます。
- 国外にある不動産の貸付けによる賃貸料が、国内にある自分の預金口座に直接振り込まれた場合
- 国外の営業所と国外の顧客との取引の対価が、国内の営業所に直接送付・振込等された場合
これに該当するものは、送金の有無に関わらず課税対象となる点に注意が必要です。
5.国外から送金されたもの
②の国外源泉所得のうち、国外で支払われたものは、「国外から送金された」場合に課税対象となります。いわゆる送金課税と言われるものです。以下の点に注意が必要です。
(1) 課税対象額
送金額そのものが課税対象となるわけではなく、その年の国外払いの国外源泉所得の金額を上限として課税されます。したがって、来日前に貯めた預金を送金しても、仮に送金した年に国外払いの国外源泉所得がなければ、送金課税の対象にはなりません。
なお、送金した資金と国外源泉所得との紐付きは無関係な点に留意が必要です。
(2) 送金されたものとみなされるもの
送金額は、まず「国外源泉所得以外の所得で国外払いのもの」(もともと課税対象のもの)に充てられたものとみなされ、それを超える部分だけが国外源泉所得への送金があったものとして扱われます。
したがって、その年の送金額が、国外源泉所得以外の所得で国外払いのものの金額の範囲内に収まる場合、仮に国外源泉所得の国外払いがあったとしても、送金課税の対象にはなりません。
(3) 送金の範囲
「送金」には、銀行送金のような通常の送金のほか次のような行為も含まれるため、一般的な「送金」よりも広い範囲をとっています。
- 通貨を持ち込む行為
- 貴金属、公社債券、株券等を携行又は送付する行為で、通常の送金に代えて行われたと認められるもの
- 国内で借入れをし又は立替払を受け、国外にある自分の預金等でその債務を弁済する行為(国内で利用したクレジットカードの代金を国外の口座から決済する場合なども、これに該当し得ます)
6.国外にある有価証券の譲渡 — 特定有価証券
3で触れたように、非永住者の課税所得の範囲を判定する場合においては、国外にある有価証券の譲渡による所得で一定のものについては、国外源泉所得に含まれます。
平成29年度税制改正で定められたもので、この対象となるのは「特定有価証券」を外国金融商品市場での譲渡等の一定の方法で譲渡した場合に限られています。
特定有価証券とは、おおまかにいえば、譲渡の日以前10年以内の「非永住者であった期間」に取得したものではない有価証券をいい、例えば非永住者が日本への入国前(非居住者期間)に取得した有価証券はこれに該当する場合が多いです。
逆にいうと、これに該当しない有価証券(非永住者である期間中に取得した国外の株式等)の譲渡益は、原則として国外源泉所得に含まれないため、送金の有無にかかわらず課税対象となります。取得時期・譲渡の方法・株式の内容によって判定が細かく分かれるため、本記事ではあくまで概要のみ記載します。
7.申告実務上の留意点
その他非永住者の申告にあたっては以下の点に留意が必要です。
- 居住形態等に関する確認書: その年に非永住者であった期間がある方が確定申告書を提出する場合、国籍や過去10年間の国内居住期間等を記載した「居住形態等に関する確認書」の添付が必要です。
- 外国税額控除: 外国税額控除の対象になるのは二重課税が生じる部分のみのため、控除限度額の計算における国外所得金額は、非永住者の場合、国内において支払われ、又は国外から送金された国外源泉所得に係る部分に限られます(外国税額控除の仕組みは別の記事で解説しています)。
- 国外財産調書: 国外財産調書の提出義務者は「非永住者以外の居住者」に限られており、非永住者には提出義務がありません。
8.おわりに
非永住者の課税所得の範囲は、「国外源泉所得かどうか」「国内払いか国外払いか」「送金があるか」という複数面からの検討が必要となります。特に、国内勤務に対応する国外払い給与や、非永住者期間中に取得した国外株式の譲渡益のように、送金がなくても課税される所得の見落としは、申告漏れに直結します。
外国から出向者を受け入れている企業の給与設計・税務にも直結する論点です。
当事務所では、非永住者の方の確定申告を含む、個人の国際税務のサポートを行っております。個別的なご相談や確定申告等のサポートも展開しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
【免責事項】
- 本記事は、執筆時点の法令・通達等に基づいて作成した一般的な情報提供を目的とするものであり、特定の取引や個別事案に対する税務上の助言を行うものではありません。税法の解釈・適用は個々の事実関係により異なり、また法改正等により内容が変わる可能性があります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
- 国外が関係する取引の場合、日本国内の法令だけでなく、国外現地での課税関係や租税条約も考慮のうえ、課税関係を検討する必要があります。
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