勤務先やその親会社の株式を報酬の一環として取得できる「株式報酬」を導入する企業が増えています。その一つにESPP(従業員株式購入プラン)があり、特に外資系企業の場合は、この制度が用意されているケースが多く見受けられます。ESPPは給与からの積み立てを行っただけでは課税されませんが、株式の購入(Purchase)や売却の際には所得税の課税対象となり、確定申告が必要になるケースが少なくありません。本記事では、ESPPについて個人に係る基本的な課税関係を具体例を用いて解説します。

1.ESPPとは

 ESPPとは、Employee Stock Purchase Planの頭文字をとったもので、日本語では従業員株式購入プランなどといいます。

 RSU(譲渡制限付株式ユニット)やStock Option(SO/ストックオプション)と同様に、いわゆる株式報酬(会社が従業員等に対して自社の株式等を付与し、又は取得させる報酬形態)の一つですが、ESPPには、従業員等が自らの給与から資金を拠出し、その資金で株式を購入するという特徴があります。その代わり、購入価格は市場価格よりも割引された価格(時価の85〜90%の金額で購入できるケースが多い)に設定されていることが一般的で、従業員等はこの割引分の利益を受けることになります。

2.ESPPの流れ

 まずは基本的な流れを確認しましょう。実際には各社の方針や規約等により異なる場合がありますが、大まかには以下の通りです。

(1) 給与控除(Deduction)と積み立て(Pooling)

 従業員等が会社の定めるESPPに加入すると、毎月の給与から一定額(給与の数%など)が天引きされ、株式の購入資金として積み立てられます。この時点では、従業員等はまだ株式を取得しておらず、自分の給与の一部を購入資金として積み立てているにすぎません。

(2) 購入(Purchase)

 一定期間が経過すると、積み立てた資金を用いて、割引価格で株式を購入することができます。購入価格は、例えば「購入日の時価の85%」のように定められているのが一般的ですが、他の方法が採用されているケースもあるため、お勤め先にご確認ください。ここで取得する株式は現物の株式なので、市場で売却することが可能です。

(3) 売却(Sell)

 (2)で取得した株式を売却し、その従業員等はその株式の売却収入を得ます。

3.ESPPの課税関係

 2で確認した一連の流れについて、個人である従業員等への所得税の課税関係を確認しましょう。以下、「日本で勤務を行っている外資系企業の従業員の方(非永住者以外の居住者に該当する方)が、外国にある親会社のESPPに加入している」という前提で、説明します。非永住者や非居住者に該当する方については、本記事の内容と課税関係が異なることがありますのでご留意ください。

(1) 給与控除(Deduction)と積み立て(Pooling)時

 この時点では、課税関係は発生しません。株式購入のための資金が積み立てられただけであり、従業員等に何の利益も発生していないためです。したがって、積み立てのみが行われた年については、ESPPについては確定申告をする必要はありません。

【具体例】

日本にある外資系企業A社に勤める従業員Bが、A社の親会社である外国企業C社の株式を割引価格で購入できるESPPに加入し、毎月の給与から購入資金の積み立てを開始した。

Bの課税関係:課税関係なし

(2) 購入(Purchase)時

 従業員等が株式を時価よりも低い価格で取得することになるため、その割引分(購入日の時価と実際の購入価額との差額)が従業員等の所得となり、給与所得として所得税の課税対象となります。したがって、ESPPによる株式の購入(Purchase)が生じた年は、その利益分について、確定申告の必要性を検討する必要があります。

 なお、この利益分の所得について、ESPPが国内の会社で用意されている場合等は、勤務先で作成される源泉徴収票に含まれているケースがあるので、事前に勤務先にご確認ください。制度が外国の親会社等により用意されており、源泉徴収票にその利益が含まれていない場合は、通常確定申告の必要があります。

 また、外国親会社から供与された経済的利益については国内の勤務先等から税務署へ調書が提出される制度があり、購入(Purchase)時の割引分の利益はこの制度の対象であるため、税務署側でも把握される仕組みとなっています。

【具体例】

Bが積み立てた資金により、C社の株式100株を購入した。購入日の時価は1株あたりUSD50であったが、ESPPの規定により15%割引された1株あたりUSD42.5で購入した。なお、当日のレートはUSD1=JPY150であった。

Bの課税関係:(USD50−USD42.5)/株×100株×150JPY/USD=112,500円が給与所得として課税対象

(3) 売却(Sell)時

 従業員等に株式の売却収入が生じるため、その利益が譲渡所得として課税対象となり、20.315%(所得税等15.315%/住民税5%)の税率で課税される申告分離課税の対象となります。なお、株式の売却については、売却収入-(取得費+譲渡費用)の算式で計算しますが、この時の取得費は、実際に支払った購入価額(割引後の価額)ではなく、(2)の購入日の時価を使用します。したがって、ESPPにより取得した株式の売却(Sell)を行い利益が生じた年は、通常確定申告をする必要があります。ただし、国内の特定口座(源泉徴収あり)で売却した場合は、源泉徴収により課税関係が完結するため、確定申告が不要となることがあります。外国の証券口座で売却する場合は、特定口座のような損益計算を証券会社が行う仕組みがないため、自身で損益計算を行う必要があります。

【具体例】

Bが(2)で取得した株式全てを売却した。売却対価は円換算後800,000円であり、売却に際して手数料等の譲渡費用は生じなかった。

Bの課税関係:800,000円−750,000円=50,000円が譲渡所得として課税対象
※取得費=USD50/株×100株×150JPY/USD=750,000円(購入日の時価)

4.おわりに

 基本的な課税関係は以上のとおり整理できますが、実際に申告に着手すると、実務上検討を要する部分が生じることがあります。例えば、使用するレートの種類、年間に複数回の購入(Purchase)がある場合、外国税の取り扱い、売却損が生じた時の申告方法など、その内容は多岐にわたります。

 当事務所では、ESPPを始めとした株式報酬の申告業務について豊富な経験がございます。個別的なご相談や確定申告等のサポートも展開しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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参考法令等:所法28、36、228の3の2、措法37の11、所基通57の3-2

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