外資系企業の日本法人では、従業員や役員が、外国にある親会社から直接、RSU(譲渡制限付株式ユニット)、ESPP(従業員株式購入プラン)やSO(ストックオプション)等の株式報酬を受け取っていることがあります。
このような株式報酬は、支払を行うのが国外の親会社であるため、日本法人での給与計算や年末調整などには反映されません。しかし、この場合であっても、日本法人には税務署へ調書を提出する義務が生じます。
本記事では、この調書の概要と作成上の留意点について解説します。
1.外国親会社等の調書とは
正式名称は「外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関する調書」といいます。平成24年度税制改正により法定調書の範囲に加えられたもので、平成24年分から提出が必要とされています(本記事では「外国親会社等の調書」といいます)。
国内で支払われる給与であれば源泉徴収票が提出されますが、国外の親会社から直接交付される経済的利益にはそれがなく、税務署が支払の事実を把握する手段がありません。そこで、役員等が勤務する日本法人側に情報提供を求める仕組みが設けられました。税額を計算するためのものではなく、情報提供のための書類です。
提出義務者は、経済的利益の供与等を受けた役員等が勤務する内国法人、又は外国法人の国内にある営業所等の長です。株式報酬を交付した外国親会社ではなく、日本側の法人が提出義務者となる点に注意する必要があります。提出先は、その内国法人の納税地等を所轄する税務署長となります。
2.対象となる範囲
(1) 外国親会社等
その内国法人の発行済株式等の50パーセント以上を直接又は間接に保有する一定の関係にある外国法人をいいます。
(2) 役員等
上記の内国法人の役員又は使用人と、外国法人の国内にある営業所等において勤務するその外国法人の役員又は使用人が対象です(退職者を含みます)。なお、居住者のほか、一定の非居住者も対象となります。
(3) 経済的利益
役員等と外国親会社等との契約により付与された株式を無償又は有利な価額で取得することができる権利等に基づき、その外国親会社等から株式・金銭その他の経済的利益の交付、支払又は供与を受けた場合が対象です。調書の様式では、権利の種類の記載例として、ストックオプション、制限株式、制限株式ユニット(RSU)、従業員持株購入権(ESPP)、ファントムストック、パフォーマンス・シェア等が挙げられており、一般的な株式報酬制度が広く該当します。
3.提出期限と記載事項
提出期限は、供与等を受けた日の属する年の翌年3月31日です。ただし、供与等を受けた方が非居住者であり、その経済的利益の全部又は一部が国内源泉所得となる場合は、翌年4月30日となります。給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表の提出期限(翌年1月31日)とは異なるため、社内の年間スケジュールから漏れやすい点にご注意ください。
なお、基準となるのは権利の付与日ではなく、株式や金銭の交付等を実際に受けた日です。例えば、RSUであれば権利確定(Vest)に伴う株式の交付日が基準となります。
調書には、外国親会社等の名称・所在地、供与等を受けた役員等の氏名・住所・個人番号、供与等を受けた年月日、経済的利益の種類・株式数・金額及びその表示通貨などを記載します。これらの元データは外国親会社やプラン管理会社が保有するケースが一般的であり、本社へのデータ請求には時間を要するため、早期の情報整理が求められます。
調書を提出しなかった場合や、偽りの記載をして提出した場合には、罰則の定めがあります。
4.提出方法
この調書の提出にあたっては、専用の合計表を添付する必要があります。提出方法は、e-Taxによる提出のほか、書面を所轄税務署へ持参又は送付する方法も認められています。ただし、調書の種類ごとに、前々年に提出すべきであった枚数が100枚以上である場合には、e-Tax又は光ディスク等による提出が義務付けられます。なお、この枚数の基準は、令和9年1月1日以後に提出するものについて30枚以上に引き下げられます。本調書についていえば、令和8年分(提出期限は令和9年3月31日)から新しい基準の対象となりますので、ご注意ください。
e-Taxにより提出を行う場合、国税庁が無償で提供しているe-Taxソフトから作成・提出が可能です。e-Taxソフト(WEB版)では本記事投稿日時点では対応していません。
また、対象者が多数にのぼる場合は、CSVファイルによる一括作成も可能です。国税庁のウェブサイトで標準フォーム(Excel)と記録要領が公開されています。
5.役員等本人の確定申告との関係
この調書は日本法人が提出するものですが、株式報酬を受け取った役員等ご本人にも、別途、確定申告の義務が生じるのが通常です。外国親会社から直接交付される株式報酬は給与所得等に該当するものの、その支払者が国外にあるため、日本法人に源泉徴収義務が生じないのが原則であり、年末調整では精算されないためです。
従業員の方ご自身が制度を理解していないことも多いため、会社としても、株式報酬に関する社内案内の際に併せて周知しておくことが望まれます。個人側の取り扱いについては、別の記事で解説しています。
6.おわりに
外国親会社等の調書は、日本法人の給与実務の流れの外側に位置しているため、制度の存在自体が見落とされやすい手続です。一方で、対象者の把握やデータの収集には相応の時間を要します。外国親会社から株式報酬を受けている役員・従業員がいる場合には、まず自社に提出義務があるかどうかをご確認ください。
当事務所では、外国親会社からの株式報酬について、会社側の調書作成と、役員・従業員ご本人の確定申告の双方に対応しております。個別的なご相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
【免責事項】
- 本記事は、執筆時点の法令・通達等に基づいて作成した一般的な情報提供を目的とするものであり、特定の取引や個別事案に対する税務上の助言を行うものではありません。税法の解釈・適用は個々の事実関係により異なり、また法改正等により内容が変わる可能性があります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
- 国外が関係する取引の場合、日本国内の法令だけでなく、国外現地での課税関係や租税条約も考慮のうえ、課税関係を検討する必要があります。
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