漫画家や同人作家として活動していると、作品がまとまった評価を受けた年などに収入が大きく変動することがあります。所得税は所得が大きいほど高い税率が適用される仕組みのため、同じ金額を稼いだ場合でも、収入が特定の年に集中するほど税負担は重くなってしまいます。
このような場合に税負担の偏りを調整する方法として、平均課税という仕組みがあります。
この記事では、平均課税の対象となる所得の範囲、適用の要件、税額の計算方法、申告の手続きを、漫画家や同人作家の方等、創作活動を行っている方を中心に整理します。
1.平均課税とは
所得税は、課税所得金額が大きくなるほど高い税率が適用される超過累進税率を採用しています。そのため、2年間の所得の合計額が同じであっても、各年に均等に発生した場合と、一方の年に集中した場合とでは、2年分の税額の合計が異なり、集中した年がある方が、通常は税額は大きくなります。
給与所得のように毎年の金額が比較的安定している所得であれば、この点は問題になりません。しかし、その年の作品の売れ行きや刊行の有無によって収入が大きく上下する所得については、たまたま収入が集中した年に高い税率が適用されることになり、長期的に見た場合に税負担の不均衡が生じてしまいます。
平均課税は、この不均衡を調整するために設けられている計算方法です。対象となる所得のうち一定の部分について、いったんその5分の1だけが発生したものとして税率を求め、その税率を残りの部分にも適用して税額を計算します。結果として、収入が集中した年の税率の上昇が抑えられます。
2.対象となる所得
平均課税の対象となるのは、変動所得と臨時所得の2つです。いずれも事業所得や雑所得で申告する所得が対象であるため、対価を給与として受け取っているサラリーマンの方等は対象となりませんので、ご留意ください。
(1) 変動所得
変動所得は、年ごとの変動が著しい所得のうち、法令で定められたものに限られます。具体的には、次のようなものが挙げられます。
- 漁獲やのりの採取から生ずる所得
- はまち、まだい、ひらめ、かき、うなぎ、ほたて貝、真珠(真珠貝を含む)の養殖から生ずる所得
- 原稿または作曲の報酬に係る所得
- 著作権の使用料に係る所得
このうち創作活動に関係するのは、太字で示した2つです。この記事では、以下この2つに絞って説明します。
なお、この列挙は例示ではなく限定列挙であるため、たとえ毎年の収入の変動が激しい所得であっても、上記のいずれかに該当しなければ、変動所得には該当せず、平均課税の対象にはなりません。
(2) 臨時所得
臨時所得は、3年以上の期間にわたる専属契約の契約金や、不動産等を3年以上使用させる権利金などで、一定の金額基準を満たすものをいいます。創作活動を行う方については、所得がこれに該当するケースは少ないでしょう。
3.変動所得の判定
漫画家・同人作家等の創作活動を行う方の収入は、いくつかの経路に分かれて稼得されることが一般的です。平均課税を適用するにあたり、それぞれの収入が変動所得に該当するかの検討が必要となります。
(1) 考え方
2で説明したように、創作活動を行う方の所得が変動所得に該当するのは、その所得が次のいずれかに該当する場合です。
- 原稿または作曲の報酬に係る所得
・・・作品の原稿を作成したことに対する対価か - 著作権の使用料に係る所得
・・・自分が持っている著作権を他者に利用させたことに対する対価か
なお、いずれにも当たらない収入、たとえば自分で制作した物を自分で販売した代金は、変動所得に含まれません。
(2) 収入の種類ごとの整理
例えば、収入の種類による変動所得への該当性を簡単にまとめると以下のようになります。なお、以下のものは、私見によるもので確実性を保証するものではなく、その内容や実態によっては異なる結果となる場合もあります。あらかじめご了承ください。
| 収入の種類 | 変動所得への判定 |
|---|---|
| 出版社等から受け取る原稿料 | 該当する(原稿の報酬) |
| 単行本・電子書籍の印税 | 該当する(著作権の使用料) |
| 著作権の利用許諾に基づいてプラットフォームから受け取る対価 | 契約内容によっては該当する(著作権の使用料) |
| 即売会での同人誌の頒布、自家通販による販売 | 該当しない |
| グッズの製作・販売による収入 | 該当しない |
| 支援型プラットフォームを通じて受け取る継続的な支援金(パトロンサイトなど) | 原則該当しない(契約内容によっては該当するケースが考えられる) |
上記の原稿料や著作権の使用料に該当するかの判定は、実務上非常に困難であることが多いです。簡便的な判定方法として、その支払いの際に源泉徴収が行われているかどうかを基準にする実務があります。原稿料や著作権の使用料の支払いを受ける際には、原則として支払う側が所得税の源泉徴収を行う必要があるためです。ただ、源泉徴収は原稿料や著作権の使用料以外にも行われたり(たとえば、挿絵やデザインの報酬は源泉徴収の対象ですが、変動所得には通常含まれないと考えられます。)、支払い先が誤って源泉徴収を行った、又は行わなかったりすることもあるため、十分に注意が必要です。
4.適用要件
変動所得がある場合でも、平均課税を適用するには、その年の変動所得の金額及び臨時所得の金額の合計額が総所得金額の20%以上であることが必要です。
なお、その年の変動所得の金額が、前年分と前々年分の変動所得の金額の合計額の2分の1以下である場合には、変動所得はこの判定に算入されず、臨時所得のみで判定を行います。
5.税額の計算方法
(1) 変動所得の金額の計算
まず、変動所得の金額そのものを計算する必要があります。変動所得の金額は、変動所得に係る収入金額から、これに対応する必要経費を差し引いた金額です。
漫画家・同人作家の方は、原稿料・印税と、同人誌の頒布やグッズの販売による収入とを併せて事業所得として申告していることが多く、必要経費もまとめて計上しています。この場合、必要経費のうち変動所得に対応する部分とそれ以外の部分とを区分する必要があります。平均課税を行う可能性がある方は、日頃の記帳からこれを意識した帳簿処理を行っておきましょう。
(2) 税額の計算手順
平均課税を適用する場合の所得税額は、次の順序で計算します。実際には指定の計算書の通りに計算するため、この手順を調べながら手計算する必要は通常ありません。
- ①平均課税の対象になる金額を次のように求めます。
(その年の変動所得の金額 - 前年分と前々年分の変動所得の金額の合計額×1/2)+ その年の臨時所得の金額
なお、前年分と前々年分のいずれにも変動所得がない場合には、その年の変動所得の金額の全額が平均課税対象金額になります。 - ②課税総所得金額から、①の平均課税対象金額の5分の4を差し引き、調整所得金額を求めます(課税総所得金額が平均課税対象金額以下の場合は、課税総所得金額の5分の1)。
- ③調整所得金額に対する税額を、通常の税率表を用いて計算します。
- ④③の税額を②の調整所得金額で割り、平均税率を求めます。
- ⑤課税総所得金額から②の調整所得金額を差し引き特別所得金額を求めます。
- ⑥⑤の特別所得金額に④の平均税率を掛けて、税額を計算します。
- ⑦③の税額と⑥の税額を合計した金額が、その年の所得税額になります。
6.申告の手続きと必要な資料
(1) 手続き
平均課税を適用するには、確定申告書に平均課税の適用を受ける旨を記載し、「変動所得・臨時所得の平均課税の計算書」を記入して添付します。
(2) 必要な資料
- その年の原稿料・印税等の支払明細、支払調書
- 前年分・前々年分の変動所得の金額がわかる資料
過去の変動所得の金額が必要となるため、過去の申告内容を確認できるようにしておく必要があります。
(3) 適用を忘れて申告した場合
平均課税の適用を当初の申告で失念していた場合、更正の請求という手続きを行うことによってその適用を求めることが可能です。更正の請求ができる期間は、原則として法定申告期限から5年間です。
7.注意点
平均課税の適用・検討にあたっては、以下の点に留意する必要があります。
(1) 住民税の取り扱い
平均課税は所得税の計算方法であり、個人住民税には同様の制度がありません。住民税の所得割は一律の税率で計算されるため、そもそも累進税率による不均衡が生じないためです。したがって、所得税での平均課税の適用有無は住民税の金額に影響を及ぼしません。
(2) 毎年安定して収入がある場合
上述の内容から分かるように、毎年同じ水準の原稿料・印税を安定して得ている場合には、平均課税の対象になる金額が小さくなり平均課税による影響額が小さくなったり、そもそも適用ができなくなったりする場合があります。毎年必ず受けられる制度ではないため、留意が必要です。
(3) 日々の記帳
3に記載のとおり、同じ創作活動による収入でも変動所得に当たるものと当たらないものがあります。原稿料・印税と、同人誌の頒布・グッズ販売等による収入とを、日頃から分けて記帳しておくと、適用の判断と計算がしやすくなります。必要経費についても、変動所得に直接対応するものを区分して記録しておきましょう。
8.おわりに
平均課税は、収入が年によって大きく変動する方にとって税負担の偏りを調整できる仕組みですが、対象となる所得の範囲が限定されており、適用の判断には収入の内容を一つずつ確認する必要があります。特に、プラットフォームを通じた収入や、原稿料と挿絵の報酬が混在している場合には、判断を要する場面が生じます。
当事務所では、通常の創作活動に係る確定申告のほか、DLsite等のプラットフォームを通じた収入やpixivFANBOX等のパトロンサイトからの収入に係る確定申告にも経験があり、事業として活動を継続していく際の記帳・会計の整備についてもご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。
【免責事項】
- 本記事は、執筆時点の法令・通達等に基づいて作成した一般的な情報提供を目的とするものであり、特定の取引や個別事案に対する税務上の助言を行うものではありません。税法の解釈・適用は個々の事実関係により異なり、また法改正等により内容が変わる可能性があります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
- 国外が関係する取引の場合、日本国内の法令だけでなく、国外現地での課税関係や租税条約も考慮のうえ、課税関係を検討する必要があります。
- 本記事は、分かりやすさを重視するため、法令上の正確な用語や厳密な表現とは異なる、平易な表現を用いている場合がございます。
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