今まで個人事業を行ってきた方が事業の法人化(法人成り)を検討する際、主に税負担の側面から検討をすることが多いのではないでしょうか。それ自体は間違いではなく、法人成りによりメリットが生じるケースも多いのですが、特に漫画家・イラストレーター・同人作家・デザイナーといった創作活動を行うクリエイターの方の場合、税負担以外の面でも検討すべき事項が多数存在します。本記事では、一般に言われる法人成りの利点を確認したうえで、創作を主とする方向けの論点を整理します。

1.一般的な法人成りのメリット

 はじめに、一般的に法人成りのメリットとして挙げられることが多い事項を確認します。

税率の違い

 個人事業の場合、課税所得の金額に応じて、最大で約55%の税率で税額が計算されます。それに対して、法人の場合、最大でも30〜35%程度の税率となるため、利益が大きい方は法人の方が税負担を抑えられることがあります。なお、税率は改正されることがあるため最新の情報をご確認ください。

報酬の支給

 法人成りをすると、法人から自分(役員)に役員報酬を通常支給しますが、この役員報酬は個人側では給与所得となるため給与所得控除の適用を受けられ、また、家族が法人の業務に従事している場合はその家族に役員報酬を支給することもできます。個人事業にも青色事業専従者給与という仕組みはありますが、専従の要件があるなど、法人の役員報酬とは要件が異なります。

退職金の支給

 法人化を行うことで、役員を退任する際などに法人から自分に退職金を支給することができます。退職金は他の所得と分けて計算され、税負担が軽減される仕組みが設けられているため、事前に設計しておくことで税負担を抑えられることがあります。なお、不相当に高額な部分は法人の損金になりません。

欠損金の繰越期間

 個人・法人ともに、赤字が生じた時は、その赤字を翌年・翌期以降に繰越すことができますが、その期間が個人は3年であるのに対し、法人は10年に渡り繰越すことができます。なお、いずれも通常は青色申告を行うことが前提です。

対外的な信用

 一般的に、個人事業主よりも法人の方が対外的な信用度が高いため、販路拡大につながる場合があります。

2.創作活動を行う方に固有の論点

 前述した通り、創作活動を行う方については、1の他に検討を行うべき事項があり、ここではその内容を確認します。

(1) 文美国保

 文芸・美術・著作活動に従事し、組合の加盟団体の会員である方が加入できる文芸美術国民健康保険組合(文美国保)という国民健康保険組合があり、創作活動を行う個人の方は、その事業内容によってはこの文美国保に加入できる場合があります。

 文美国保には、保険料が所得の多寡にかかわらず定額であるという特徴があり、所得がある程度大きい方の場合、前年の所得に応じて保険料が決まる国民健康保険に比べ負担が軽くなる場合があります。

 法人化をすると、原則として社会保険に加入することになり、この文美国保に加入することができない(加入済みの方は脱退する必要がある)ため、法人成りの前に負担額などを検証しておく必要があります。一度脱退すると、再び加入するには法人を解散する、役員でなくなるといった対応が必要になるため、他の検討事項と比べても後から取り返しにくい項目です。

 なお、保険料の額や加入の条件は改定されることがあるため、最新の内容は組合の公式サイトでご確認ください。また、社会保険の手続きや加入義務等の詳細については管轄の年金事務所や社会保険労務士にご確認ください。

(2) 平均課税

 個人の場合、原稿料や著作権の使用料のように年ごとの変動が大きい所得については、一定の要件を満たす場合に平均課税という計算方法を適用することができます。累進税率による負担を緩和する仕組みで、一時的に収入が上がったような年には、この平均課税を利用することにより、通常の計算よりも税負担を低くすることができます。

 それに対し、法人にはこれに対応する仕組みがなく、通常の法人税の計算を行うことになります。また、個人として法人から受け取る役員報酬についても変動所得には当たらないため、いずれにせよ平均課税の対象にはならなくなります。

 収入が数年にわたって平準化してきている方であれば、そもそもの平均課税の効果が小さいため問題にならない場合もありますが、そうでない方は事前に直近数年の収入の推移を確認のうえ平均課税の効果も含めて法人成りを検討する必要があります。

 なお、平均課税の要件や対象となる所得の範囲については、漫画家・同人作家等の平均課税についてをご覧ください。

(3) 収益の帰属先の移転

 個人事業として創作してきた作品から生じる収益を法人の収益とするには、著作物の取り扱いや報酬の支払先について、契約・名義・実態を整合させる必要があります。法人を設立しただけで、それまでの取引や作品にかかる収益が自動的に法人のものになるわけではありません。

 また、この部分は、作品の性質や取引先との契約内容によって取り得る形が異なるため、一律の答えがありません。

 法人成りを検討する段階で、現在の取引がどのような契約に基づいているかを確認し、どのようにして法人の収益とするか(または個人に残すか)等を個別に検討しておく必要があります。

(4) 役員報酬の設計

 法人が役員に支払う報酬を損金に算入する(法人の経費にする)には、原則として、事業年度の開始から3か月以内に金額を決め、その事業年度を通じて同額を同時期に支給し続ける必要があります。

 創作を主とする事業では、作品の反響や契約の成否によって期の途中で収入が大きく動くことがありますが、上記の理由から役員報酬の変更は行いづらく、事前の想定と相違する可能性が高くなります。例えば、思うように売上が上がらない場合でも、事前に設定した役員報酬を支給し続けることになり、資金繰りを圧迫することがあります。

3.法人成りを検討すべき場合

 2では創作活動を行う方が法人成りの際に留意すべき点を中心に見てきましたが、その留意点を考慮したうえで、例えば次のような場合には、法人化を検討する余地があります。

収入が安定してきた場合

 数年にわたって一定の利益が見込めるようになれば、2に記載した平均課税や役員報酬の問題が生じにくくなります。

組織化を行う場合

 アシスタントを雇用する、制作の一部を複数の外注先に委託する等の場合、組織としての体裁と社会保険の適用等の信用が担保されやすい法人の方が有利なことがあります。

創作以外の収益が育ってきた場合

 グッズの製造販売、講座の運営、他の作家の作品の取り扱いなど、創作活動そのもの以外の収益が大きくなってくると、2の問題は相対的に小さくなります。

4.おわりに

 創作活動を行う方に焦点をあてて、法人成りの留意点等を解説してきました。法人成りは事業を行ううえで重要な節目の一つですので、成功できるよう事前の確認・検証はしっかりと行う必要があります。法人成りを検討する際は、税負担の比較から入るのではなく、まず本記事の2に挙げた事項のうち自身に当てはまるものを確認し、そのうえで税負担を比較するという順序をとると判断しやすくなります。

 当事務所では、イラストレーターや漫画家等の創作活動を行う方へのサポートを行っています。法人成りの判断についても、税負担の比較だけでなく、事業の実態に合った形かどうかを含めてご相談を承ります。お気軽にお問い合わせください。

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参考法令等:所法30、70、90、法法34、57

【免責事項】

  • 本記事は、執筆時点の法令・通達等に基づいて作成した一般的な情報提供を目的とするものであり、特定の取引や個別事案に対する税務上の助言を行うものではありません。税法の解釈・適用は個々の事実関係により異なり、また法改正等により内容が変わる可能性があります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
  • 国外が関係する取引の場合、日本国内の法令だけでなく、国外現地での課税関係や租税条約も考慮のうえ、課税関係を検討する必要があります。
  • 本記事は、分かりやすさを重視するため、法令上の正確な用語や厳密な表現とは異なる、平易な表現を用いている場合がございます。
  • 本記事の情報に基づいて行った行為により生じた損害について、当事務所は責任を負いかねます。
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