「自分の事業を始めたい」と考えたとき、何から手を付ければよいか迷う方は多いのではないでしょうか。筆者は、地域の創業相談員や近隣市の商工会議所での事業者相談員を務めており、これから事業を始める方のお話を伺う機会が多くあります。その経験から、創業の準備を始める前に整理しておくと、その後の計画づくりや資金調達が格段に進めやすくなると感じる項目があります。本記事では、創業を思い立ってから事業計画・融資の検討に進むまでに整理しておきたいことを、簡単にご紹介します。

1.創業したい理由を整理しよう

 最初に整理していただきたいのは、「なぜ創業したいのか」です。精神論のように聞こえるかもしれませんが、非常に重要な項目です。

 事業を始めると、想定どおりに進まない場面が必ず訪れます。そのときに軸となるのが、創業の動機です。また、後述する事業計画書には創業の動機を記載するのが一般的で、もし創業融資を検討する場合はその面談でもほぼ確実に質問されます。「勤務先で培った経験を活かしたい」「地域にこういうサービスが足りないと感じている」など、ご自身の言葉で説明できる状態にしておきましょう。

 あわせて、「今の働き方を続ける場合と比べてどうか」という視点でも一度考えてみることをお勧めします。創業ありきで進めるのではなく、比較したうえで創業を選んだという整理ができていると、その後の判断もぶれにくくなります。

2.どのような事業を行うか決めよう

 具体的に、事業の中身を考えましょう。ここでのポイントは、「やりたいこと」だけでなく「自分にできること」の観点からも考えることです。

 これまでの職務経験、身に付けた技術や資格、業界で築いた人脈などを一度棚卸ししてみてください。創業する事業がこれまでの経験と地続きであるほど、事業の立ち上がりは安定しやすく、創業融資の審査においてもプラスに働きます。逆に、経験のない分野で創業する場合は、その分野でどのように知識・経験を補うかを説明できるようにしておく必要があります。

 なお、業種によっては、営業にあたって許認可や資格が必要な場合があります(例:飲食店の営業許可、建設業の許可、古物商の許可など)。該当する可能性がある場合は、その要件や流れを早めに確認し、必要に応じて監督官公庁や行政書士等の専門家に相談しておきましょう。

3.誰にサービスを提供するのかを考えよう

 事業の中身が固まってきたら、「誰に売るのか」を具体的にします。

 「できるだけ多くの人に」と考えたくなるところですが、想定するお客様が曖昧なままだと、店舗の立地や価格の設定、宣伝の方法といった個別の判断ができません。「どの地域の」「どのような属性の」「どのような困りごとを持つ」方に提供するのかを、できる限り具体的に描いてみてください。

 ここが明確であればあるほど、事業戦略が立てやすくなります。

4.想定の売上・利益を見積もろう

 続いて、数字の検討に入ります。3で描いたお客様の像をもとに、売上を見積もります。

 このとき、「月商100万円くらいはいけるはず」といった感覚的な数字ではなく、根拠のある形で組み立てることが大切です。例えば店舗ビジネスであれば「客単価×1日あたりの客数×営業日数」、サービス業であれば「契約単価×想定の契約件数」のように、要素に分解して積み上げます。要素に分解しておくと、実際に事業を始めた後、想定と実績のどこにズレがあったのかを検証することもできます。

 売上と同時に、想定される経費についても考えましょう。家賃、仕入、人件費、水道光熱費、広告費など、毎月出ていくお金を並べ、売上からこれらを差し引いた利益がどの程度残るのかを確認します。

 また、見落としがちな視点として、事業の収支とは別に、ご自身やご家族の生活費があります。創業直後から十分な利益が出るケースはむしろ少数で、事業が軌道に乗るまでの間の生活費をどう賄うかは、あらかじめ考えておきたい項目です。

5.事業に充てられる自己資金を確認しよう

 数字の見通しが立ったら、手元の資金を確認します。預貯金のうち、生活費や万一への備えを除いて、事業に充てられる金額がいくらあるかを把握しましょう。

 創業にあたって必要な資金を全額自己資金で賄えることが理想です。しかし、特に店舗ビジネスを行う予定の場合は一般的に設備投資額が大きくなるため、自己資金だけでは必要な資金を確保できないケースがあります。そのような場合は7の創業融資を検討することになるため、必要資金の総額と自己資金を事前に把握しておきましょう。

 なお、現在の日本政策金融公庫の創業融資では自己資金に関する明確な数値要件は設けられていませんが、審査では自己資金の額や、それをどのように貯めてきたかが引き続き重視されます。実務上は、必要資金の3割程度の自己資金があると計画に無理がないと言われることが多く、自己資金は多いにこしたことはありません。

6.事業計画書にまとめよう

 1〜5で整理した内容を、書面に落とし込みます。それが事業計画書です。

 「事業計画書」と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、ゼロから自由に書くものではありません。例えば、日本政策金融公庫が公表している「創業計画書」の様式には、創業の動機、経営者の略歴、取扱商品・サービス、販売先、必要な資金と調達方法、事業の見通しといった記載欄が設けられています。基本的には、これらは本記事の1〜5で整理してきた項目と対応しています。つまり、ここまでの整理ができていれば、事業計画書の作成は「まとめる」作業になります。

 様式と記入例は日本政策金融公庫のホームページで公開されているほか、地域の金融機関が独自の様式を用意していることもありますので、一度ご確認いただくことを推奨します。実際に記入してみると、まだ詰め切れていない部分が浮かび上がってくるはずです。

7.創業融資を検討しよう

 開業に必要な資金を自己資金だけで賄えない場合は、融資による調達を検討します。

 創業間もない時期は事業の実績がないため、一般的な事業融資は受けにくいのが実情ですが、創業者向けには次のような選択肢があります。

  • 日本政策金融公庫の創業融資:政府系金融機関である日本政策金融公庫は、これから創業する方・創業して間もない方向けの融資を取り扱っています。創業融資の代表的な選択肢です。
  • 自治体の制度融資:都道府県や市区町村が信用保証協会・金融機関と連携して行う融資制度です。お住まいの自治体や事業を行う地域の制度を確認してみてください。
  • 民間金融機関の創業融資:地域の信用金庫等でも、創業者向けの融資や公庫・制度融資と組み合わせた提案を受けられる場合があります。

 融資の制度や条件は改定されることがありますので、検討の際は必ず最新の情報をご確認ください(※本記事の融資制度に関する記述は公開日時点の情報に基づいています)。

 なお、融資の審査で見られるのは、突き詰めれば「この計画で返済できるか」という点です。1〜6の整理を丁寧に行ってきた方ほど、審査の場で説得力のある説明ができます。融資のために計画を作るのではなく、作ってきた計画が融資にもそのまま活きる、という順序で捉えていただくのがよいと思います。

8.おわりに

 ここまで、創業する前に整理しておきたいことを順にご紹介しました。すべてを一人で完璧に整理する必要はありません。むしろ、考えを言葉にして人に話すことで整理が進む場面は多く、家族や信頼できる方に話してみることも立派な準備の一つです。

 また、創業をお考えの方が利用できる公的な相談先・情報源として、次のようなものがあります。

  • 日本政策金融公庫:創業計画書の様式・記入例のほか、創業に関する各種情報が公開されています。
    https://www.jfc.go.jp/
  • よろず支援拠点:国が各都道府県に設置している経営相談所です。創業予定の方の相談にも対応しています。
    https://yorozu.smrj.go.jp/
  • ミラサポplus:中小企業庁が運営する、補助金・支援施策の情報ポータルサイトです。創業後も含めて、国の支援策を調べる際に役立ちます。
    https://mirasapo-plus.go.jp/

 このほか、市区町村の窓口、商工会議所・商工会、地域の信用金庫等でも、創業に関する相談や支援を受けられる場合があります。お住まいの地域や事業を行う予定の地域で、どのような支援があるか確認してみてください。

 筆者も、地域の創業相談員や近隣市の商工会議所での事業者相談員を務めています。相談の場では、本記事でご紹介したような項目を一緒に整理するところからお手伝いすることも多くあります。創業前の準備段階から専門家に相談することで、数字の見積もりや資金計画の精度を高めることができますので、当事務所へのご相談もお気軽にお問い合わせください。

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