個人事業を開業すると、事業そのものの準備と並行して、税務関係の届出をいくつか提出することになります。届出の中には、提出期限を過ぎるとその年の適用を受けられなくなるものや、提出しないことで不利な取り扱いになり得るものが含まれるため、開業初期のうちに全体像を把握しておくことが大切です。
本記事では、個人事業を開業した場合に提出する主な届出について、その内容と提出期限を解説します。なお、法人を設立した場合は届出の種類や期限が異なるため、本記事では扱いません。また、消費税に関する届出(インボイス制度の登録を含みます)は、事業の内容や取引先により判断が分かれるため、別の機会に扱うこととします。
1.事業開始に伴う開業の届出
(1) 個人事業の開業届出書(税務署)
新たに事業を開始した場合、納税地の所轄税務署へ個人事業の開業届出書を提出します。事業の概要や屋号のほか、後述の給与の支払いに関する事項もこの届出書に記載します。提出期限は、事業を開始した日の属する年分の確定申告期限までとされています(令和8年1月1日以後の開業から。それ以前の開業については、開業の日から1か月以内とされていました)。
提出しなかった場合の罰則はありませんが、青色申告の承認申請をはじめとする各種の手続きの前提となるほか、屋号付きの銀行口座の開設等で開業届の控えの提示を求められることもあるため、開業したら速やかに提出しておくことをお勧めします。
また、提出についてはe-Tax上から電子で提出することを推奨します。紙で提出した場合は控えが入手できませんが、創業融資や屋号付き口座の開設のため、控えが必要となるケースがあるためです。e-Tax上で提出したものについては、提出後にその内容を出力することができます。
(2) 都道府県税事務所への事業開始手続
(1)とは別に、都道府県税事務所へも事業を開始した旨の届出書(東京都の場合は事業開始等申告書)を提出します。これは個人事業税に関する手続きで、名称・提出先・提出期限は自治体により異なります(東京都では、事業開始の日から15日以内)。
なお、提出していない場合でも、所得税の確定申告の内容に基づいて個人事業税は課税されるため、実害は生じにくいですが、制度上は提出が求められているものです。
2.青色申告承認申請書
青色申告の適用を受けようとする場合は、所得税の青色申告承認申請書を所轄税務署へ提出します。提出期限は、適用を受けようとする年の3月15日までです。ただし、その年の1月16日以後に開業した場合は、開業の日から2か月以内となります。
なお、前述のとおり開業届の提出期限は事業開始年分の確定申告期限までとされていますが、青色申告承認申請書の期限はこれとは別であり、開業届を先送りにしている間に青色申告の期限が過ぎてしまうことがあり得ます。開業届と青色申告承認申請書は、同時に提出してしまうことをお勧めします。
青色申告には、最大65万円の青色申告特別控除、純損失の3年間の繰越控除、青色事業専従者給与など、白色申告にはない特典が設けられています。提出期限を過ぎるとその年は白色申告となり、翌年からの適用となってしまうため、期限に注意が必要です。
3.従業員や家族に給与を支払う場合の届出
(1) 給与支払事務所等の開設届出書
従業員を雇用して給与を支払う場合、その給与支払事務を行う事務所を開設した日から1か月以内に、給与支払事務所等の開設届出書を所轄税務署長に提出する必要があります。ただし、開業届を提出する場合には、開業届に給与等の支払いの状況を記載する欄があるため、この届出書を別途提出する必要はありません。
(2) 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
給与を支給する場合、その給与から所得税の源泉徴収を行う必要がありますが、その源泉徴収した所得税は、原則として支払月の翌月10日までに毎月納付します。しかし、給与の支給人員が常時10人未満の場合には、申請により、その納付を年2回(1月〜6月分を7月10日まで、7月〜12月分を翌年1月20日まで)にまとめることができます。毎月の納付事務は負担が大きいため、対象となる場合は早めに申請しておくことを推奨します。
なお、早くても申請した月の翌月に支払う給与分からの適用になるため、申請した月の分は原則どおり翌月10日までの納付となる点にご注意ください。
(3) 青色事業専従者給与に関する届出書
生計を一にする配偶者や親族に支払う給与は、原則として必要経費になりませんが、青色申告者が青色事業専従者給与に関する届出書を提出している場合には、届出の範囲内で支払った給与を必要経費とすることができます。提出期限は、適用を受けようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した場合や新たに専従者を有することとなった場合は、その日から2か月以内)です。
期限を過ぎるとその年は適用できないため、家族への給与の支払いを予定している場合は、早めに提出しておく必要があります。
4.提出の検討が必要な届出
例えば、以下の届出が挙げられますが、これらの提出は任意です。提出しない場合にはあらかじめ定められた方法が自動的に適用されるため、事前に検討する必要があります。いずれも、提出する場合の期限は、開業した年の確定申告書の提出期限までです。
(1) 減価償却資産の償却方法の届出書
減価償却の方法について、届出をしない場合には定額法を用いることが定められています(「法定償却方法」といいます)。定率法など他の方法を選びたい場合に、この届出書を提出します。もっとも、建物・建物附属設備・構築物は定額法しか選択できないこととされています。任意に償却方法を選択できる資産について、定率法による早期の償却を選びたい資産がある場合に、提出を検討することになります。
(2) 棚卸資産の評価方法の届出書
商品や製品などの棚卸資産の評価について、届出をしない場合には最終仕入原価法を用いることが定められています(「法定評価方法」といいます)。先入先出法や売価還元法など他の方法を選びたい場合に、この届出書を提出します。
5.提出期限のまとめ
ここまでの届出の提出期限を整理すると、次のとおりです。
※ 表は横にスクロールできます。
| 届出 | 提出先 | 提出期限 |
|---|---|---|
| 開業届 | 税務署 | 事業開始年分の確定申告期限まで |
| 事業開始等申告書 | 都道府県税事務所 | 自治体により異なる |
| 青色申告承認申請書 | 税務署 | 3月15日まで(1月16日以後の開業は開業から2か月以内) |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 税務署 | 開設の日から1か月以内(開業届に記載した場合は不要) |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 税務署 | 期限なし(申請月の翌月支払分から適用) |
| 青色事業専従者給与に関する届出書 | 税務署 | 3月15日まで(1月16日以後の開業等はその日から2か月以内) |
| 減価償却資産の償却方法の届出書 | 税務署 | 開業年分の確定申告期限まで |
| 棚卸資産の評価方法の届出書 | 税務署 | 開業年分の確定申告期限まで |
6.おわりに
開業時の主な届出は以上のとおりです。創業前の準備全般については「創業する前に整理しておきたいこと」を、開業後の経理の始め方については「freee会計を使い始める前に整理しておきたいこと」を、それぞれ別記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
もっとも、実際の開業にあたっては、検討を要する部分が生じることがあります。例えば、消費税やインボイス制度への対応、開業前に支出した費用の取り扱い、事業とプライベートの支出の区分など、その内容は多岐にわたります。
当事務所では、創業支援や創業期の顧問契約に対応しております。個別的なご相談やサポートも展開しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
【免責事項】
- 本記事は、執筆時点の法令・通達等に基づいて作成した一般的な情報提供を目的とするものであり、特定の取引や個別事案に対する税務上の助言を行うものではありません。税法の解釈・適用は個々の事実関係により異なり、また法改正等により内容が変わる可能性があります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
- 国外が関係する取引の場合、日本国内の法令だけでなく、国外現地での課税関係や租税条約も考慮のうえ、課税関係を検討する必要があります。
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