会計ソフトの導入・乗り換えを行うときに、最初に行う設定のひとつが「開始残高」の登録です。開始残高とは、会計ソフトを使い始める時点での資産・負債・純資産の残高のことで、これまでの記帳内容を引き継ぐための設定にあたります。

 登録自体は、前期末の貸借対照表の金額を科目ごとに移していくため、複雑なものではありません。ただし、この設定を誤ると残高が合わない状態が続き、決算にも影響を及ぼします。また、後から修正しようとすると手間がかかる箇所でもあります。

 本記事では、既に事業を行っていて、他の会計ソフトやExcel等からfreee会計に乗り換える方を対象に、開始残高の登録方法と、登録時に注意したい点を説明します。

 なお、freee会計の具体的な操作手順は公式のヘルプページに説明がありますので、そちらをご参照ください。また、個人事業からの法人成りを行った場合の引き継ぎは、資産をどのように法人へ移転するかという別の論点を伴うため、本記事では取り扱っておりません。

 事業用口座の分け方や証憑の管理方法など、freee会計を使い始める前に整理しておきたい事柄については、freee会計を使い始める前に整理しておきたいことをご覧ください。

1.開始残高とは

 開始残高として登録するのは、会計ソフトを使い始める会計年度の期首日(会計期間の初日)時点の残高です。個人事業主であれば1月1日時点、法人であれば事業年度の初日時点の金額を登録します。前期末の貸借対照表(決算日時点での資産と負債、その差額である純資産を一覧化したもの)に記載されている金額と一致するため、それを参考に登録する流れになります。

 なお、売上や経費といった損益の金額については、それぞれの年度の決算で既に確定しているものであるため、開始残高への登録は行いません。

 また、freee会計上、開始残高は利用初年度にのみ設定できます。その年度の年度締めを行うと、開始残高の入力項目は表示されなくなります。利用2期目以降の期首残高は、前年度の期末残高から自動的に繰り越される仕組みになっているため、年度締め後に誤りに気づいた場合は、修正に非常に手間がかかります。使い始めの段階で正確に登録しておくことが重要です。

2.設定時期

(1) 期首からfreee会計を利用する場合

 freee会計の利用開始日からなるべく早いタイミングで入力しておきましょう。開始残高が設定されていない状態では、日々の帳簿が正確ではない状態で表示されてしまうためです。期首から使用開始する場合は、前期の貸借対照表の金額を単に開始残高に入力すれば概ね問題ないため、比較的簡便に行うことができます。

(2) 期中でfreee会計への乗り換えを行った場合

 freee会計は、期中からの使用開始も可能ですが、開始残高には期首時点の残高を設定するのが通常です。したがって、期中からfreee会計の導入を行う場合、次の2つの方法から検討することになります。

  • 期首に遡って、期首以降の取引をすべてfreee会計に登録し直す
  • 当期は従来の方法で記帳を続け、翌期の期首からfreee会計に切り替える

 どちらで進めるかは、期首からの経過期間と取引量によります。後者の方が各種設定等は簡便ですので、通常はこちらを選択します。しかし、期首から間もない時期であったり、仕訳や取引のインポート機能を上手く利用できる体制が整っている場合には、前者の方法で進めることも可能です。事前の状況やどのタイミングで乗り換えを行いたいかを、あらかじめ確認しておく必要があります。

 なお、乗り換え前の会計ソフトで月次決算等が十分に行われている場合、任意のタイミングでの残高を開始残高に設定して、期中からfreee会計の使用を開始する方法も考えられます。ただし、難易度が高く、過去の帳簿も参照しにくい状態になってしまいますので、当事務所では推奨していません。本記事でも、期首時点の残高で処理を行う前提で説明しています。

3.登録方法

 開始残高の登録方法を説明します。なお、前述のとおり前期末の貸借対照表が必要となりますので、事前にご用意ください。各残高の内訳が分かる資料(法人であれば勘定科目内訳明細書等)があると、なお便利です。

(1) 手入力

 freee会計の開始残高の入力画面から、前期の貸借対照表に記載された各科目の残高を入力していきます。入力が漏れると、各科目の残高がずれたり、二重計上が生じたりする事故につながります。それぞれの金額が一致しているかを必ず検証しましょう。

(2) CSVインポート

 以前使用していた会計ソフト等から残高のCSVデータを出力できる場合、それをfreee会計に取り込むことで、まとめて処理を行うことが可能です。会計ソフトによって出力できるフォーマットが異なり、取り込み用にデータを加工する必要が生じる場合がありますので、事前に確認しておきましょう。

(3) 自動入力

 前期の決算書等のPDF等をアップロードすることで、その内容を自動的に入力することも可能です。非常に便利ですが、読み取りや勘定科目の割り当てが上手くいかなかったり、想定と違う取り込まれ方をしたりする可能性もあるため、どのように取り込まれたかを必ず検証しましょう。

 なお、上記の各方法は、事業所の区分(個人・法人)やご契約のプランによって利用できるものが異なる場合があります。

(4) 内訳の登録

 各金額の入力時には、それぞれの内訳も含めて入力することを推奨します。具体的には、開始残高の入力時に「取引先タグ」を利用して、取引先ごとの残高を管理していくことになります。

 特に売掛金や買掛金は、取引先ごとの残高を登録しておくと、期首後に入金や支払があった際の消込(入金と請求の対応付け)が行いやすくなります。合計額だけを登録した場合、この消込を行うことができず、入金のたびに手作業で処理することになります。

 なお、科目によっては「品目タグ」による内訳の登録も可能です。それぞれのタグの使い方の具体例等は本記事では取り扱っておりませんので、ご了承ください。

4.注意点

(1) 個人事業主の元入金

 法人の場合、資本金や繰越利益剰余金といった純資産の金額は、前期の決算書に記載された金額をそのまま登録します。資産・負債・純資産の登録内容に誤りがあれば貸借が一致しませんので、その時点で誤りに気づくことができます。

 一方、個人事業主の場合、純資産にあたる元入金は、登録した資産と負債の差額として自動的に計算されます。資産や負債の金額を誤って登録しても、その誤差は元入金に吸収され、貸借は一致してしまいます。つまり、個人事業主の場合、「エラーが表示されないこと」が正しく登録できていることの証明にはなりません。第5章のとおり、貸借対照表と科目ごとに突き合わせる確認が欠かせません。

(2) 固定資産台帳への登録

 車両や機械、一定額以上の備品などの固定資産がある場合、開始残高への金額の登録とは別に、固定資産台帳への登録が必要です。台帳には、資産ごとに取得価額・取得日・耐用年数・償却方法・期首時点の帳簿価額といった情報を登録します。

 開始残高に金額を入れただけでは減価償却費が自動で計算されませんので、決算のタイミングまでに気が付かないと、減価償却費の未計上が生じてしまいます。前期の決算書に添付されている減価償却の明細を用意して、資産ごとに登録しておきましょう。

(3) 口座連携

 freee会計に銀行口座やクレジットカードを連携すると、明細が自動で取り込まれます。このとき、開始日より前の日付の明細まで取り込まれることがあります。

 開始日より前の取引は、既に開始残高として残高に反映されています。取り込まれた明細をそのまま登録すると、同じ取引を二重に計上することになりますので、開始日より前の明細は登録しないようにしましょう。

 逆に、連携の設定が遅れ、期首から連携開始までの明細が取り込まれていない、という状態も起こります。この場合はその期間の入出金が記帳されず、freee会計上の口座残高と実際の残高が合いません。連携を設定したら、期首の日付まで明細を取得できているかを最初に確認しておきましょう。

5.登録後の確認

 登録を終えたら、前期末の貸借対照表と、freee会計に登録した開始残高を科目ごとに突き合わせます。第4章のとおり、貸借が一致していることは、内訳まで正しいことを意味しません。合計額ではなく、科目ごとの金額の一致を確認しましょう。

 また、開始残高を直接修正できるのは利用初年度に限られます。決算を締める前に、開始残高の内容をもう一度確認しておきましょう。

6.おわりに

 開始残高の登録は、freee会計を使い始めるにあたって一度きりの作業です。作業自体は前期末の貸借対照表を移していくだけのものですが、ここで登録した残高がその後の帳簿の土台になりますので、誤りがあれば期中の数字も決算書も正しくなりません。乗り換えのタイミングで残高の内容を整理しておけば、その後の記帳の精度も上がります。

 当事務所では、freee会計の導入支援として、開始残高の設定や他の会計ソフトからのデータの移行、初期設定の設計をお手伝いしています。顧問契約をいただいている場合は、顧問料の範囲内で対応いたします。お気軽にお問い合わせください。

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